今回は、経済産業省から提供されている「ローカルベンチマーク」をご紹介します。

ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)とは、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)です。企業の経営者等や金融機関・支援機関等が、企業の状態を把握し、双方が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組みであり、事業性評価の「入口」として活用されることが期待されています。

もともとは、急激な人口減少に伴う地域経済の縮小に対する危機感が背景にあり、地域(=ローカル)経済の「稼ぐ力」を維持し高めていくため、そこに根ざす地域企業が付加価値を創造し、雇用を創出し続けることができるように、企業の経営判断・経営支援の材料となる評価指標(=ベンチマーク)として策定されました。

「入口」とうたわれているように、これを試しただけで何かが変えられる、という性質のものではありませんが、一度立ち止まって自社(自分)の経営を振り返る良いきっかけとなるのではないかと思います。

ローカルベンチマークの構成

ローカルベンチマークは二段階の構成となっています。

第一段階

第一段階では、自社の属する地域について、次のような状況の分析、把握を行います。

  • 地域の経済・産業の現状と見通しの把握、分析(産業構造や雇用の状況、地域内外の取引の流れ、需要構造等に関するデータを利用)
  • 地域の中核的な企業等の地域経済における位置付けや影響度合い等の把握

第一段階は、金融機関・支援機関等が評価対象とすべき企業を特定したり、対応方針等を検討するために実施されることが想定されています。

「そもそもこんなデータどこにあるんだ?」とお思いになったでしょうか?

例えば、RESASというデータサイト(RESASへリンク(https://resas.go.jp)) を利用します。

RESASは、産業構造や人口動態、人の流れなどの官民ビッグデータを集約し、可視化するシステムです。利用方法の具体例としては、地方自治体において観光関連施策を新たに検討するにあたり、産業や地域資源、来訪者の目的地、流動人口推移等のデータを入手することなどがあります。

RESASでは、データ自体は簡単に抽出できるのですが、どのような条件を設定すれば分析の参考になるデータを取り出せるかを見出すのに少しコツが必要かな、と思います。

このため、経営者の方ご自身がローカルベンチマークに興味を持たれた場合には、まずは次に説明する第二段階からスタートしてもよいのではないかと思います。

第二段階

第二段階では、財務面と非財務面から、自社の経営について分析します。

財務情報に基づく分析

3期分の決算書等に基づき次の6つの経営指標を算出し、同業他社の数値と比較し、スコアをつけます。

  • 売上増加率
  • 営業利益率
  • 労働生産性
  • EBITDA有利子負債倍率
  • 営業運転資本回転期間
  • 自己資本比率

財務分析結果シートのイメージです。

出典:「【最新】ツール利用マニュアル(2018年5月公表版)」(経済産業省)(http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/manyuaru201805.pdf) 4ページ (平成30年7月3日に利用)

それぞれの指標の算出方法と意味を簡単にご説明します。

1. 売上増加率売上持続性

=(売上高/前年度売上高)-1

キャッシュ・フローの源泉である売上高の増減率を確認するとともに、企業の成長ステージ(成長期にあれば売上高が増加、など)を判断するのに有用です。

2. 営業利益率収益性

=営業利益/売上高

本業の収益性を測る重要な指標であり、事業性を評価するための、収益性分析の最も基本的な指標です。

3. 労働生産性生産性

=営業利益/従業員数

従業員1人当たりが獲得する営業利益を示すものであり、成長性や競争力等を評価できる指標ですが、個別の企業においては「従業員の単位労働時間あたり」の付加価値額(営業利益額等)で算出する方が実態に即しています。

4. EBITDA有利子負債倍率有利子負債の返済能力(健全性)

=(借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費)

(営業利益+減価償却費)の部分が「EBITDA(イービットディーエー、イービットダー)」と呼ばれる指標で、営業キャッシュ・フロー(主たる事業活動から得られる現金収支)を簡便的に示しています。

借入金残高から手許現預金を差し引いた残債と営業キャッシュ・フローを比較していますので、倍率が小さい(分母が大きい)方が返済能力がある、ということになります。

5. 営業運転資本回転期間効率性

=(売上債権+棚卸資産-買入債務)/月商

営業運転資本とは、販売した商品の売上債権を回収するまでに必要なつなぎ資金を表します(下図参照)。

売上高が増加しているときは、通常、売上債権、棚卸資産、買入債務のそれぞれが増加し、結果的に運転資本も増加しますが、それは正常な増加と言えるでしょう。

逆に、売上高が減少すれば、売上債権、棚卸資産、買入債務のそれぞれが減少し、運転資本も減少するはずですが、もしそうなっていない場合、売上債権や棚卸資産の滞留、買入債務の支払サイトの短縮(買入債務の自然減よりも急激な減少→取引先が当社に信用不安を抱いている可能性)が考えられます。

このように、売上増減と比較した運転資本の増減を計測し、回収や支払等の取引条件の変化による必要運転資金の増減を把握します。

6. 自己資本比率安全性

=純資産/総資産

総資産のうち、返済義務のない自己資本が占める比率を示すものであり、安全性分析の最も基本的な指標です。

ローカルベンチマークのメリット(財務分析)

経営指標そのものは、決算書があれば簡単に算出できますが、それだけでは絶対評価といいますか、その数値自体の良し悪しの判断にとどまります。しかし、このローカルベンチマークには約10万社のデータが蓄積されており、それと比較したときの自社の相対的なスコアを簡単に見ることができるのが大きなメリットだと思います。

非財務情報に基づく分析

次の4つの視点を軸に、自社の強みと弱み、事業環境を分析していきます。

  • 経営者への着目
  • 事業への着目
  • 関係者への着目
  • 内部管理体制への着目

非財務分析結果のイメージです。

出典:「【最新】ツール利用マニュアル(2018年5月公表版)」(経済産業省)(http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/manyuaru201805.pdf) 10ページ (平成30年7月3日に利用)

1. 経営者への着目

地域企業(中小規模の企業を想定)においては、経営者が与える影響が大きいため、経営者自身について明らかにします。

  • 経営者自身のビジョン、経営理念
  • 後継者の有無
2. 事業への着目

ビジネスモデルを理解し、事業の強み・課題の所在を明らかにします。

  • 事業の商流
  • ビジネスモデル、製品・サービスの内容、製品原価
  • 市場規模・シェア、競合他社との比較
  • 技術力、販売力の強み/弱み
  • ITの能力:イノベーションを生み出せているか

商流・業務フローの把握に当たって作成するフローチャートのイメージです。

出典:「【最新】ツール利用マニュアル(2018年5月公表版)」(経済産業省)(http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/manyuaru201805.pdf) 8ページ (平成30年7月3日に利用)

3. 関係者への着目

企業を取り巻く市場環境や販売先・取引先企業からの評価を把握するとともに、企業を内部から支える関係者である従業員の状況を把握します。取引金融機関数と推移を見ることによっては、企業に対する金融機関のスタンスやメインバンクとの関係などを推量することができます。

  • 顧客リピート率、主力取引先企業の推移
  • 従業員定着率、勤続日数、平均給与
  • 取引金融機関数とその推移、金融機関との対話の状況
4. 内部管理体制への着目

地域企業においては、同族企業による属人的な経営が多いことが想定されるため、内部管理体制の整備状況や、第三者を含む会議体に基づく客観的な経営がなされているかを把握します。

  • 組織体制
  • 社内会議の実施状況
  • 経営目標の共有状況
  • 人事育成システム
ローカルベンチマークのメリット(非財務分析)

「SWOT分析」という用語をお聞きになったことがあるかもしれません。S(Strength:強み)、W(Weakness:弱み)、O(Opportunity:機会)、T(Thread:脅威)の4つの軸から経営分析を行うもので、SとWは企業の内部環境、OとTは企業の外部環境となっています。

ローカルベンチマークの非財務情報に基づく分析は、SWOT分析に、中小企業ならではのオーナー経営者への権限集中や同族経営といった特性が加味されており、実態に即した分析ができるのではないかと思います。

ローカルベンチマークを試してみるには?

「ローカルベンチマークを試してみたい」と思われた方には、経済産業省のホームページに入力用ツールが用意されています。

*経済産業省「ローカルベンチマーク」のページへリンク(http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/)

ただ、財務情報はともかく、非財務情報を白紙の様式に記入していくのはなかなか大変なことかと思います。

現在申請受付中のIT補助金では、ローカルベンチマークによる経営分析結果が申請必要書類とされているため、申請受付サイトに、経営分析ができるページが用意されています。非財務情報に基づく分析も選択肢方式となっているため、試してみやすいのではないかと思います。

*IT導入補助金「経営診断ツール」のページへリンク(https://www.it-hojo.jp/applicant/checktool.html)

補助金の申請をするしないにかかわらず、どなたでも利用することができます。

まとめ

冒頭にも記載しましたが、ローカルベンチマークはあくまでも「入口」です。この結果をもとに、成長の源泉となる事業を見出し、発展させるための対策を検討するのですが、重要なのは、不採算で成長の見込みがない事業については、撤退を検討することも必要になるということです。

特に事業からの撤退については、撤退コストを見積もる必要があったり、現にその事業に従事する従業員や取引先などの既存の関係性があることから、判断が難しくなります。そのようなときは、経営者の方のみではなく、地域のことをよく知る金融機関、財務に通じた税理士など、ノウハウのある専門家と協力していくことが望ましいと思います。


参考資料: